673 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/08/17 00:46 ID:xes23ovJ [7/12回]
知り合いの話。 

仕事でイギリスに出張した際、現地の同僚から変わった話を聞いたという。 

その同僚がまだ幼い頃、彼の家では犬を飼っていたそうだ。 
実家の山村からもらった白い雑種犬だった。 
色々と変わった所のある犬だったらしい。 
普通、犬猫の類いは目を見つめるとすぐに視線を逸らす。 
好奇心や注意が続かないためらしいが、その犬はじっと見つめ返してきた。 
根負けして視線を外すのは、いつも彼の方だったという。 

ある日身体の調子が悪く、学校からいつもより早く帰宅した。 
門を潜り庭を歩いていると、いつもは彼を迎える犬が出てこない。 
どうしたのかな?と思い、犬の名前を呼びながら犬小屋を覗いてみた。 

愛犬の姿は見当たらず、小屋の床には何か毛のような物が堆積していた。 


674 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/08/17 00:46 ID:xes23ovJ [8/12回]
(続き) 
持ち上げてみて、思わず悲鳴を上げる。 
それは可愛がっていた犬の毛皮だったのだ。 
悪い冗談のように目と口が黒い穴を開けており、微かに温もりが残されていた。 

ショックで泣き喚きながら、母屋へと駆け込んだ。 
驚きながら迎えてくれた母親に、犬が剥かれちゃったと訴えた。 
慌てて外に出ようとする母子に「バウッ!」という吠え声がかけられた。 

見ると玄関のすぐ外に、犬が座り込んで尻尾を振りまくっていた。 
犬は激しく息を弾ませていた。まるで慌てて駆け戻ってきたかのように。 
それを見た母親が、嘘を吐くのもいい加減にしなさいと説教をする。 
いくら本当に見たんだ!と言っても、もう相手にされない。 
奥に引っ込んだ母親を恨めしく思いながら、彼は犬の前にしゃがんだ。 
いつもは目を逸らさない犬が、その時だけはツッと余所を向いた。 



675 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/08/17 00:48 ID:xes23ovJ [9/12回]
(続き) 
こいつめ、謀りやがって。 
腹立ちまぎれに、頭を強くクシャクシャにしてやったという。 
犬は機嫌を取るように、その手をペロリと舐めてきた。 

「俺が思うに、あいつは時々毛皮を脱いで、何かしていたんだな。 
 結局、現場は押さえられなかったけど」 

犬は彼が大学に入学する年、フイッと姿を消してそれきりだそうだ。 
「あんな犬でも、いなくなると寂しいよ」そう言っていたという。