453 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:04/08/10 17:05 ID:7GWMiJNL [1/2回]
去年の春だった。会社で仕事してたら、携帯に警察から電話がかかってきた。 
同居してる妹らしい女性が、意識不明で倒れていたところを発見されたという。 
慌てて早退して、教えられた病院に行った。身元を確認してくれとICUに通された。 
点滴の管に繋がれて寝ていたのは、やっぱり妹だった。 
命の危険は脱したが、検査と経過観察などでしばらく入院することになると云われた。 
入院準備の説明を聞き、実家や会社への連絡などを済ませてから家に帰った。 
部屋で布団に入った途端、猛烈に不安になってきた。 
もともと体弱くて持病てんこ盛りの奴だけど、意識不明で口にビニール管なんか 
つっこまれてるのを見たのは初めてだった。 
思い出しただけでどんどん心細くなってきて、いたたまれず友達に電話した。 

話してるうちに、少し落ち着いてきた。 
もう大丈夫だからと電話を切ろうとした頃、唐突に彼女が言った。 
「大丈夫だよ、妹ちゃんとこ、ニャンコ来とるし」 
その人はいわゆる『みえる』人で、たまにそんな話をすることもあった。 
それでも、そういう感覚のない私はやっぱり半信半疑で、どんな猫か訊いてみる。 
「白くてデカくて、アタマんとこだけ帽子みたいに黒っぽい猫だね」 
………びっくりした。 

間違いない、妹が中学生の頃、学校帰りに拾ってきた猫だ。 
拾った時にはもう大人猫だったオスで、Tという名前だった。 
大きくて貫禄があり、毎日黙々とパトロールに出る無愛想なヤクザみたいな 
雰囲気の猫で、妹が一番かわいがり、妹に誰よりも懐いていた。 
うちに来て1年ちょっとで事故死したけど、冬の寒い日に、妹の肩先を温める 
みたいに、首のそばにくっついて寝ていたのを思い出す。 
でも、この猫の話を、私が友人にしたことは一度もなかったのだ。


454 : 本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:04/08/10 17:06 ID:7GWMiJNL [2/2回]
妹と猫の話をすると、友人はふーんと頷いて続けた。 
「あとなー、なんやらマダラの小さいのもおるわ」 
実家には絶えず何匹かの猫がいるけど、そっちには心当たりがない。 
記憶を探って悩んでいると、友人は笑った。 
「はは、今あんたんとこにも一部来とるよ。大丈夫かなって様子見とるわ」 
彼女の話では、ひとつの霊が同時に違う場所に存在するってこともあるらしい。 
今のおおよその割合は、妹のところに九割、私のところに一割くらい。 
嬉しいような怖いような、複雑な気分でその日は寝た。 

数日たって、妹がまともに喋れるまで回復した頃に、私は彼女に話した。 
Tが、あんたの事気にして様子見に来てたって。 
妹は顔を覆い、心配かけちゃったなあ、と涙声で言った。 

マダラの子猫の謎も、本人に訊いたらあっさり解けた。 
大学時代、構内に野良猫が沢山住み着いて、学校側が駆除のため毒餌をまいた。 
それを口にして死にかけていた子猫を、妹は自転車置き場で見つけたという。 
結局、手当しようもなく膝の上で看取った子猫は、黒茶のマダラだった。 
もう10年くらい前の、私も初めて聞いた話だった。 

母にこの話をしたら、見舞いに上京してきた時、庭にあるハクモクレンの木から 
花を一輪だけ枝ごと折り取り、ビニール袋に入れて持ってきた。 
すぐに傷んで変色してしまう花だと思っていたのに、長旅のわりに白い綺麗なまま 
だったのが、ちょっと不思議だった。 
Tは、そのハクモクレンの木の下に眠っている。 

あれから1年少々。妹は今日もそれなりに元気だ。 
この間、起き抜けに寝ぼけて転んで、生爪をはがしたりもしてたけど。