701 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2009/04/18(土) 23:43:12 ID:tFqcyJCs0 [1/2回(PC)]

友人の話。 

実家近くの山に、転ばせ坂と呼ばれる坂があるのだそうだ。 
そこには転ばせ様という鬼が住んでおり、通りがかる者を転倒させるのだという。 
何度もそこを通ったことのある彼は、その言い伝えを微塵も信じていなかった。 

先日帰郷した時のこと。 
転ばせ坂を通りがかった彼は盛大に転けてしまった。 
まるで誰かに足を掴まれたかのようだった、と彼は言う。 
擦り剥いた左肘を庇いながら身を起こす・・・あれっ? 

手首に巻いていた筈の腕時計が失くなっていた。 
進学祝いに母が買ってくれた物だった。 
必死になって辺りの草むらを探ったが、腕時計はもうどこにも見つからなかった。 

落ち込んで家に帰ると、祖母が「どうしたの?」と聞いてきた。 
事情を話すと、あらあらという顔をする。 

「転ばせ様が人を転ばせるのは、その人が身に付けている物が欲しいからだって 
 言われとるよ。 
 転ばせたその隙に、こっそり掠めちゃうんだって」 

祖母は更にこう教えてくれた。 

「後で餅を搗いてあげるから、それ持って明日もう一度あそこに登っておいで。 
 腕時計はどうしても要るからこの御餅と交換して下さいって、丁寧に頼むんだよ」
 
702 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2009/04/18(土) 23:44:17 ID:tFqcyJCs0 [2/2回(PC)]

(続き) 
翌日、彼は餅を持参して山を登り、もう一度転ばせ坂に向かった。 
半信半疑ながらも餅を掲げ、祖母に言われた口上を述べた。 

「俺、何してるんだろう?」ふっと我に返った瞬間。 

足をすくわれた。 
あっという間もなく、再び盛大に転倒してしまう。 
痛たっ・・・涙を滲ませながら面を上げると、すぐ目の前に光る物が落ちていた。 
昨日ここで失くした腕時計だった。 

ハッと手の中を見ると、餅はどこにも見当たらない。 
坂の上には呆けたような彼と、腕時計だけが残されていた。