599 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2009/04/15(水) 19:40:58 ID:Gq7kdmYV0 [1/2回(PC)]

知り合いの話。 

彼の親戚に、イイナワ使いと呼ばれる人がいたという。 
イイナワとは飯縄と書くそうで、人に使役される一種の使い魔なのだそうだ。 
使役する者をイイナワ使いと呼んだというが、飯縄は人を病気にしたりもするので、 
大層忌み嫌われたらしい。 
そのためナワ使いの家筋は、人も入らないような山奥へ追いやられ、人目を避けて 
隠れるように住んでいた。 

「まぁそうは言っても、昔の話だからね、どこまで本当なのかわかりはしない。 
 今は一族も皆、里や町に出て暮らしてるしね。 
 イイナワなんて誰も使えやしない」 

「でもね、その小父さんは本物だった。 
 下界から持ち込まれた、失せ物・探し人・占いといった問題事を、すべてナワを 
 使って解決していたっていうんだ。 
 そればかりか、どうやら人を病気にしたり、不幸にしたりすることまでやってた 
 みたいでね、親族からも恐れられてた」 

「なぜか僕はその人に可愛がられていてね、よく話をして貰ったよ。 
 ある時、聞いてみたんだ。 
 イイナワってどんな動物なのかって。 
 何で人の言うことを聞いてくれるのかって」 
 
600 : 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:2009/04/15(水) 19:43:18 ID:Gq7kdmYV0 [2/2回(PC)]

(続き) 
小父さんは真顔でこう答えたという。 

『伝えられてるイイナワっていうのがどんなモノなのか、私は知らないんだ。 
 呼び名からすると飯綱権現のことだと思うけどね。 
 つまり狐だ。 
 でも、私が使っているのはそういうモノではないから』 

そう言って、腰に下げた瓢箪を取り出し、目の前で振ってみた。 

『この中にね、私の弟が入っているんだよ』 

何とも言えない顔で、小父さんはそう言った。 

『私より五つばかり年下だけど、残念なことに死産だったんだ。 
 その子がなぜか、この瓢箪の中に入り込んでしまってね。 
 家族は誰も信じてくれなかったが、弟の声が聞こえるのも、弟と話が出来るのも 
 私だけだったから、仕方のないことだね。 
 何と言ってもこの世に二人だけの兄弟だからね、意思の疎通も簡単なんだよ。 
 タマ(魂)だけの存在だから、お狐様みたいなことが可能なんだろう」 

住んでいた山村の廃棄が決まり、一族が山を下りても、小父さんは一人山に残った 
のだという。 

「小父さんは今でも、瓢箪と会話しながら暮らしているんじゃないかと思うよ」 

そう言った彼の顔は、どこか寂しそうに、しかし安堵しているようにも見えた。